
トップ施工管理技士に聞く成功の秘訣
はじめに
施工管理の仕事は、建設プロジェクトの成否を左右する重要な役割です。 品質、工程、安全、コストなど、多岐にわたる要素をバランスよく管理し、 プロジェクトを成功に導くには、高度な専門知識と経験、そして優れたマネジメント能力が求められます。
この記事では、大規模プロジェクトを成功に導いてきた経験豊富な施工管理技士の方々に インタビューを行い、その成功の秘訣や、若手技術者へのアドバイスを伺いました。 施工管理技士としてのキャリアを築きたい方、さらなるステップアップを目指す方にとって、 貴重な指針となるでしょう。
プロフィール紹介
佐藤 誠さん(50代・大手ゼネコン)
大手ゼネコンで30年以上のキャリアを持つベテラン施工管理技士。 1級建築施工管理技士、1級土木施工管理技士、コンクリート診断士の資格を保有。 超高層ビル、大規模商業施設、医療施設など、数多くの大型プロジェクトの施工管理を担当。 現在は作業所長として、若手技術者の育成にも力を入れている。
田中 健太郎さん(40代・中堅建設会社)
中堅建設会社で技術部長を務める田中さん。 1級土木施工管理技士、技術士(建設部門)の資格を保有。 トンネル、橋梁、ダムなどの土木構造物の施工管理を専門とし、 特に難易度の高い現場での問題解決能力に定評がある。 ICT技術を活用した施工管理の推進者としても知られている。
鈴木 美香さん(30代・設備工事会社)
設備工事会社のプロジェクトマネージャーを務める鈴木さん。 1級管工事施工管理技士、1級電気工事施工管理技士の資格を保有。 大規模オフィスビルや工場、データセンターなどの設備工事の施工管理を担当。 女性技術者が少ない業界で、リーダーシップを発揮し、多くのプロジェクトを成功に導いている。
成功するプロジェクトに共通する要素
1. 入念な準備と計画
インタビューした3名に共通していたのは、「準備と計画の重要性」への強い認識でした。 佐藤さんは「施工計画の段階で8割は決まる」と語ります。
「工事が始まってからの対応は、基本的に後手に回ります。施工計画の段階で、 リスクを洗い出し、対策を練っておくことが重要です。特に、工程のクリティカルパスを 明確にし、余裕を持ったスケジュールを組むことを心がけています」(佐藤さん)
田中さんも同様に、「事前の地質調査や現地踏査に時間をかける」ことの重要性を強調します。 「土木工事は自然を相手にするので、想定外の事態が起こりやすい。だからこそ、 事前の調査と準備が重要です。私は必ず現地を歩き回り、周辺環境や地形、 アクセス路などを自分の目で確認します」(田中さん)
施工計画のポイント
- 工程のクリティカルパスを明確にする
- リスク要因を洗い出し、対策を準備する
- 余裕を持ったスケジュールを組む
- 資材・機材の調達計画を綿密に立てる
- 協力業者との事前調整を十分に行う
2. コミュニケーションと信頼関係の構築
3名とも口を揃えて強調したのが、「コミュニケーションの重要性」です。 施工管理は、発注者、設計者、協力業者、作業員など、多くの関係者との 調整が必要な仕事です。その中で、円滑なコミュニケーションと信頼関係の 構築が、プロジェクトの成功に大きく影響します。
「私が大切にしているのは、『報連相』の徹底と、定期的なミーティングです。 特に問題が発生した時は、隠さずに早めに報告することを徹底しています。 また、協力業者との信頼関係も重要で、日頃からのコミュニケーションを 大切にしています」(佐藤さん)
鈴木さんは、「設備工事は他の工種との調整が多いので、 コミュニケーション能力が特に重要」と語ります。 「私は毎朝、各協力業者の職長と短時間のミーティングを行い、 その日の作業内容や注意点を確認しています。また、図面だけでなく、 現場でのスケッチや写真を活用して、イメージを共有することも大切です」(鈴木さん)
3. 問題解決能力と決断力
建設現場では、予期せぬ問題が日常的に発生します。 そうした状況で、迅速かつ適切な判断を下す能力が、 トップ施工管理技士には求められます。
「現場では、計画通りに進まないことの方が多いです。 そんな時、問題の本質を見極め、最適な解決策を見つける能力が重要です。 私は『5つのなぜ』を使って、問題の根本原因を探るようにしています」(田中さん)
「決断を先送りにすると、工程に影響が出ます。 不確実な状況でも、その時点で最善と思われる判断を下す勇気が必要です。 もちろん、安全に関わる判断は慎重に行いますが、 工程に関わる判断は迅速さが求められます」(佐藤さん)
鈴木さんは、「女性ならではの視点で問題解決することもある」と語ります。 「例えば、協力業者間の調整が難しい場面で、 感情的にならずに冷静に話を聞き、双方が納得できる解決策を 提案することを心がけています」(鈴木さん)
キャリア構築のアドバイス
1. 基礎知識と現場経験のバランス
施工管理技士として成長するためには、専門知識の習得と 現場での実践経験をバランスよく積むことが重要です。
「若手のうちは、とにかく現場で多くの経験を積むことが大切です。 しかし、ただ経験を積むだけでなく、その経験を体系的な知識と 結びつけることが重要です。私は若手技術者に、 現場で疑問に思ったことを必ず調べて理解するよう指導しています」(佐藤さん)
「土木の場合、地盤工学、構造力学、水理学など、 基礎的な工学知識が重要です。これらの知識があると、 現場で起きる現象を理解し、適切な判断ができます。 資格取得の勉強も、知識を体系化する良い機会です」(田中さん)
2. 専門性と幅広い視野
キャリアを築く上で、専門分野を持つことと、 幅広い視野を持つことの両方が重要だと3名は口を揃えます。
「私の場合は、コンクリート工事に特に力を入れてきました。 コンクリートの品質管理や施工方法について深く学び、 専門性を高めたことが、キャリアの武器になりました。 一方で、建築全体のプロセスや、設備、電気などの 他工種についても理解を深めることで、 全体最適の視点で施工管理ができるようになりました」(佐藤さん)
「設備工事は、空調、衛生、電気など多岐にわたります。 私は最初に空調設備を専門にしていましたが、 徐々に他の分野にも知識を広げていきました。 特に、BIMを活用した設備設計・施工に力を入れたことで、 他社との差別化ができたと思います」(鈴木さん)
キャリアアップのためのスキルアップ方法
- 上位資格の取得(1級施工管理技士、技術士など)
- 専門分野の深掘り(論文執筆、セミナー参加など)
- ICT・BIMなどのデジタルスキルの習得
- マネジメントスキルの向上(PMPなど)
- 語学力の向上(グローバルプロジェクト対応)
3. 人間関係とネットワーク構築
施工管理の仕事は、多くの人との協働で成り立っています。 人間関係の構築とネットワーク作りの重要性について、 3名は次のように語ります。
「建設業は『人』の業界です。協力業者との良好な関係が、 工事の品質や工程に大きく影響します。私は、 協力業者の方々の名前と顔を覚え、 その人の得意分野や性格を理解するよう心がけています。 また、業界団体の活動にも積極的に参加し、 社外のネットワークを広げることも大切です」(佐藤さん)
「女性技術者は少数派なので、最初は苦労することもあります。 しかし、真摯に仕事に向き合い、専門知識を身につけ、 コミュニケーションを大切にすることで、 徐々に信頼関係を築くことができます。 また、女性技術者のネットワークに参加することで、 情報交換や悩みの共有ができるのでおすすめです」(鈴木さん)
若手施工管理技士へのメッセージ
最後に、若手施工管理技士へのメッセージを伺いました。
「施工管理の仕事は、大変なことも多いですが、 自分が関わった建物や構造物が形になり、 社会の役に立つ姿を見られる、やりがいのある仕事です。 失敗を恐れず、積極的にチャレンジしてください。 そして、常に学び続ける姿勢を持ち続けることが大切です」(佐藤さん)
「土木の仕事は、国土づくりに直接貢献できる仕事です。 自然を相手にする難しさはありますが、 その分、完成したときの達成感は格別です。 若いうちにできるだけ多くの現場を経験し、 様々な工法や地質条件に触れることをおすすめします」(田中さん)
「設備は建物の『血管』や『神経』のような存在で、 目に見えにくいですが、とても重要な役割を担っています。 特に今は、省エネや環境配慮が求められる時代なので、 設備技術者の役割はますます重要になっています。 女性技術者も増えてきているので、 ぜひチャレンジしてほしいと思います」(鈴木さん)
まとめ
今回のインタビューを通じて、トップ施工管理技士に共通する 成功の秘訣が見えてきました。入念な準備と計画、 円滑なコミュニケーションと信頼関係の構築、 そして問題解決能力と決断力が、プロジェクトの成功に 大きく貢献していることがわかります。
また、キャリア構築においては、専門知識と現場経験のバランス、 専門性と幅広い視野の両立、人間関係とネットワーク構築が 重要なポイントとなっています。
施工管理技士を目指す方、キャリアアップを考えている方にとって、 今回のインタビューが参考になれば幸いです。 建設業界は今、働き方改革やICT化の推進など、 大きな変革期を迎えています。こうした変化を チャンスと捉え、新しい時代の施工管理技士として 活躍されることを願っています。